新しさの可能性
と面白さの価値
前刀氏と武田の出会い
― まずはお二人の出会いを教えてください。
前刀氏:
2016年、燕三条青年会議所で講演をさせていただいた時に燕三条を訪れたのだけど、せっかくなので何社か訪問したい企業があって、その中の一つが、かつてApple製品の製作でお世話になった武田金型製作所だったんだよ。「これがMacの首です」などと丁寧に説明をしてくれていた社長のその横に息子である武田さんがいて。「面白いことをやっているなぁ」というのが武田さんの印象だった。それとは別で、僕の初著書『僕は、だれの真似もしない』を持っていると言ってくれていたんだよね。武田:
自分の会社を立ち上げて意識が変わってきたわりと始めの方に読んだ本だったことや、父の会社がAppleの仕事をしていたこと、それと自分がApple好きだったところに勝手にシンパシーを感じていたんです。前刀さんの書籍には、まさに自分がこれからしていったらいいのではないかと思っていたようなことが書かれていて、背中を押していただいた感覚だったんです。そうしたら「ご本人が来た…!」となって。今でも鮮明に覚えているのですが、前刀さんだとわかった瞬間声が出なかった。なんてこの気持ちを伝えたらいいんだろうと思って悩んだ結果、「持ってます!」としか言えなかったんですよね(笑)。前刀氏:
そしてその時に発見したMGNETの名刺入れ(当時の「mgn」)を一目で気に入って。そんなきっかけで名刺入れに率直な意見を言わせていただくようになったんだよね。金属の名刺入れ”が進化した
武田:
前刀さんに初めてお会いしたそのすぐ後、東京に前刀さんに会いに行ったじゃないですか。あの時、いろいろなお話をさせていただいた中でも、うちの名刺入れについてすごく色々とご意見をくださっていたのが印象的で、本当に名刺入れのことを気に入ってくださっていたんだなと、それはちょっと驚きでした。前刀氏:
でもその代わり注文が多いっていうね(笑)。「開閉した時の音が安っぽい」だの「ここが合っていない」だの「ここが歪んでいる」だの、とにかく色々言ったよね。武田:
でもその場で「すぐに直します!」ってお約束をして、新潟に戻ってすぐに社長(父)にプレゼンをしました。「前刀さんが本当に名刺入れのことを愛してくれていて、ここを直したらもっと良くなるとおっしゃってくださったんだ」ということを資料にして。そしたら「そんなに簡単に会える人じゃないんだ」と若干の説教をされましたが、「直そう!」という話になって。前刀氏:
その出来事がなかったら、ちょっと毛色の違った“金型会社がつくる金属の名刺入れ”というだけだったかもしれないけど、精度や質感を高めるというところまで行けたのはすごくよかったと思うし嬉しい限り。それにこんなもんじゃないなという確信は初めからあったしね。もっとできるでしょ!という。でも最初はなかなか職人さんはやってくれなかったんだよね?武田:
最初はすごく大変でした。でもそれがあって父だけでなくて職人たちの火がついたんですよね。「まあ見てろ」と。でもそれも前刀さんが「職人のそのスイッチが必ず入るから」とおっしゃってくださっていて。だから関係を崩すなとずっと言ってくださっていた。なんというか、職人は職人で言いたいことがあったんですね。多分前刀さん以上に本当は精度を出したい側というか。前刀氏:
やっぱりいいものをつくりたい人っていうのは、無理難題を言うんだよ。そうするとエンジニアがこのやろうって思うんだけど、やってやろうじゃないかってやっぱりなるんだよね。だからその時も絶対越えられるだろうなと思って。武田:
前刀さんにOKを出してもらえた時は嬉しかったですね。その後「mgn」から「FOR」へとリブランディングを果たし展示会に出た時に、うちの名刺入れを知っている製造業の人たちがめちゃくちゃびっくりしていたんですよ。別物になっているというか、言ってみたら外側の外寸がちょっと小さくなっているのに内寸が変わっていない。これってまさに精度を上げたらできることだけど、多分作り手からすると一番やりたくないというか。そこまでの工程がどれだけ大変かをわかっていられるので。最初は「名刺が入ればいいんでしょ?」と言っていた職人たちも、結局自分たちの名前がそのまま出るということに気づいて、意識が備わったというか。こだわりを知っている人たちが作っているというこの状態が大事だと思いました。前刀氏:
やっぱりね、質感て本当に大切で、ちょっとした手抜きが仕上がりを、ひいては物の価値を全く損なっちゃうんだよね。だから作り手の価値を高めるためには、やっぱり使い手の質も実は上がらなくてはならなくて。違いがわかる人たちを増やしていかなくてはいけない。いいものに触れることによってその人たちが豊かになるし、感性も磨かれる。ちょっと変わっただけでも“何かが違う”ということを人は無意識のうちに感じるわけ。これがちょっとした開け閉めだったりとか、手に持った質感が悪いと使わなくなる。最初は物珍しいから持ってるんだけど、持ち続けることがいやになるわけ。だけどほんのちょっとだけ心地いいとずっと使うんだよね。だから神は細部に宿るって言葉があるけど、実際そうなんだよ。本当に人々の感性を豊かにするものだと思うしね。“Free yourself”から“Exceed yourself”へ
― 最後に、MGNETのクリエイティブアドバイザーに就任した、今後の展望について教えてください。
前刀氏:
MGNETは、つくることにおいてはまだまだこの先も進化を目指すべきだと思うし、FORを媒介として“人の感じる力”をもっと磨いていくというか、“人が豊かになっていく”というところに繋げていきたいよね。子供はなんであんなに楽しそうになんでもやるのかといったら、そのほとんどが新しい体験で、結果がどうなるのかわからない。でもだからこそおもしろいわけ。何歳になってもそういう感覚を持ち続けられるようにしてほしいし、人々がFORを使うことによってワクワクすることの大切さや、楽しさを感じるといったことを追求していきたい。とことん追求するか、もうこんなものだろうといって妥協しちゃうかで大きな差を生むんだよね。お客様の期待を超えてこそ初めて素晴らしいものになる。そういうことをやっぱりMGNETにはやってほしいなと思っている。武田:
MGNETにこうやってアドバイザーとして加わってくださるといったことも、前刀さんにとっては「楽しい」といった感情が大きいですか?前刀氏:
うん、だって楽しいじゃない。こういうもの(FOR)をさらに突き詰めていくのって楽しくない?単につくるのがおもしろい。だから子供感覚だよね。MGNETであり、武田金型製作所であり、そこがテーマパークみたいな感じ。もともとアップルにいて、人が成長し続ける“セルフイノベーション”ということや、最近では“ワンダーラーニング”というのをもっとわかりやすく伝えようとしていて。これは企業も一緒なんだけど、まずは自分自身が固定観念から自分を解放するという Free yourself という考え方があって、でもそこで終わらず改めて自分たちの価値はなんなのかということをしっかりと見出し、再定義して自分を創るという Create yourself というフェーズがあって。でもそれで終わってはだめ。常に自分を超え続ける Exceed yourself というフェーズがある。だからずっと超え続ける。あくなき追求をしていくというのをこれからもっともっとやっていく。ここを一緒にやっていけるとおもしろいなと思っているよ。武田:
できればこれから前刀さんにはFORだけじゃなく、ぜひ新潟に来ていただいてソフトな部分もご一緒できたらいいなと思っています。前刀さんが提唱されているワンダーラーニングは、まさに自分が考える「結局自分が面白いと思えないと、学びも入ってこない」ということと共通していて。“自ら学び続ける”ことを、MGNETの教育事業、広くは人材づくりにも参画していただきながら実現していきたいです。前刀氏:
まさにワクワクすることの大切さを伝えていきたいね。